ラム酒、サトウキビを原料として作られるこのお酒は、熱帯の陽光と海風のフレーバーをビンに閉じ込めたかのようです。
その甘さと独特の風味は、カリブ海の熱帯地域のトロピカルなイメージを喚起させます。
映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」が好きな人や歴史に詳しい人にとっては、壮大な冒険や大航海時代の明暗ある歴史を想起させるお酒かもしれません。
そんなラム酒ですが、製造過程や種類に驚くほどの多様性があります。世界中で愛されており、その製造法や風味は産地によって大きく異なります。
バーテンダーの間では、ラム酒はそのバリエーションの豊かさとユニークな特性から、カクテル作りに欠かせないスピリッツとされています。
この記事では、そんなラム酒の歴史、製造方法、種類、選び方など、ラム酒についての基本的な知識をご紹介しています。
当記事は、皆さんがラム酒の魅力を知り楽しむための手引きとなるよう、またラム酒が好きな仲間を一人でも増やせればとの思いを込めて書かれています。
当記事をきっかけに、あなたがラム酒好きの仲間に加わっていただければ嬉しいです。
それでは、このカリブ海の風を感じさせる独特のスピリッツ、ラム酒の世界へ一緒に旅を始めましょう!
ラム酒の歴史
ラム酒の歴史は、15世紀に新大陸が発見された時にまで遡ります。新大陸の地ではサトウキビの栽培が行われ、これが後のラム酒製造の土台となりました。
ラム酒という名称が初めて現れるのは、17世紀初頭のカリブ海地域の文献です。その地ではサトウキビが大量に生産され、砂糖の製造過程で発生した副産物であるモラセス(糖蜜)が生産されていました。このモラセスを発酵・蒸留することで、当初は質の低い酒が作られましたが、これがラム酒の原型となります。
18世紀に入ると、ラム酒は三角貿易の一部となり、その人気は高まりました。サトウキビが育つ熱帯の地域で生産されたラム酒は、アフリカ、ヨーロッパ、北アメリカを結ぶ交易路を通じて広く流通しました。
その後、技術の進歩によりラム酒の製造法も洗練され、品質も格段に向上していきました。
また、フレンチスタイルの新しいラム酒の製造方法も生まれました。この新しい製造方法では、サトウキビジュースを直接使用し、これがラム酒に新たな独特な風味と高い評価をもたらしました(アグリコールラム ※後述)。
また、19世紀から20世紀にかけてのカクテルブームの中で、ラム酒は多くのカクテルの基酒としてその位置を確立していきます。モヒートやダイキリなど、今でも愛されるラムベースのカクテルの多くがこの時期に生まれました。現代では、ラム酒はその風味と多様さから、世界中のバーテンダーに愛されるスピリッツとなっています。
そして一部の上質なラム酒はウイスキーやブランデー等と同様に、ストレートでじっくりと味わう高級酒としても評価されています。
多種多様なラム酒が存在する今、その魅力を再発見する時期になったのかもしれません。
ラム酒の製法
上述したように、ラム酒の原原料はサトウキビですが、製法は大きく2つに分かれます。
特にサトウキビを製糖し砂糖を製造する際に副産物として発生する、モラセス(糖蜜)というどろりとした茶褐色の液体が広く利用されます。このモラセスを発酵させ、蒸留してラム酒が作られます。モラセスから作られるラム酒は、しっかりとした甘さと独特の風味を持っています。モラセスからラム酒を作ることは、最も古いラム酒製造の方法となっており、トラディショナル製法(伝統的な製法)と呼ばれています。トラディショナル製法で作られたラム酒は「トラディショナルラム」と呼ばれます。
一方、モラセスではなくサトウキビジュースを直接発酵させて作られるラム酒もあり、そういったラム酒は「アグリコールラム」と呼ばれます。この方法で作られるラム酒は、サトウキビのフレッシュな風味が強調され、モラセスから作られるラム酒とは異なる特徴を持ちます。
アグリコールラムは近年人気を博していて流通量は増えていますが、世界で流通しているラム酒の9割がトラディショナルラムと言われています。
ラム酒の種類と特徴
ラム酒の分類方法はいくつかあります。分類の仕方によって呼ばれ方が変わりますので、メジャーなものをご紹介します。
色で分ける場合
ホワイトラム
ホワイトラムは、蒸留後にほとんどまたは全く熟成させずにボトリングされるラム酒の一種です。色が白または透明で、風味が軽やかなことが特徴です。クセがなくフラットな味わいのため、モヒートやダイキリといったカクテルのベースとして使用されることが多いです。
ゴールドラム(アンバーラム)
木製の樽で短期間(数ヶ月から数年程度)熟成されることにより、黄金色を持つようになったラムは「ゴールドラム」または「アンバーラム」と呼ばれます。
熟成により、ラム酒は樽から風味と色合いを吸収していくため、ゴールドラムは様々な風味を持つリッチな味わいとなります。
ゴールドラムはホワイトラムよりも風味が強いため、ストレートやロックで飲むことが多いです。
ダークラム
ダークラムは、長期間(数年から数十年)樽で熟成されることにより、ゴールドラムより濃い、ダークな色を持つようになったラム酒のことを言います。
ダークラムは、樽から甘い香りやスパイスの香りを強く吸収しているため、濃い香りと風味が特徴です。一般的に、ラム酒の中では高価な製品が多い種類になります。
その豊かな風味から、ダークラムはストレートで楽しむのが一般的ですが、ホット・バタード・ラムなどのカクテルで使用されることもあります。
製造方法・味付け、熟成年数などで分ける場合
色の他にも分類方法はあります。通常、ラム酒は「ダークラムかつエイジドラム」という風に、複数の属性を持っています。
トラディショナルラム
前述しましたが、モラセス(糖蜜)を使用した伝統製法で作られたラム酒をトラディショナルラムと呼びます。
アグリコールラム
モラセス(糖蜜)ではなく、サトウキビジュースをそのまま使用したラム酒をアグリコールラムと呼びます。
エイジドラム
特定の期間、樽で熟成されたラム酒のことをエイジドラムと呼ぶこともあります。通常は瓶に記載されています。
スパイスドラム
副原料として果物やバニラといったスパイスなどで風味付けされたラム酒で、甘さや風味が強調されたラムです。
ラム酒の製造地域とその特色
ラム酒は世界中のさまざまな地域で製造されていますが、カリブ海地域が最も有名です。
この地域では各島々が独自のスタイルと製法を持ち、それぞれがユニークなラム酒を生み出しています。
たとえば、ジャマイカのラム酒は重いボディとフルーティーな香りが特徴的です。
一方、バルバドスのラム酒は滑らかでバランスの取れた風味が特徴で、カクテルに用いられることが多いです。
キューバ産のラム酒は軽やかでドライなスタイルが人気で、モヒートやダイキリなどのカクテルによく使われます。
また、フレンチスタイルのラム酒であるアグリコールラムはフランス領のマルティニークやグアドループで生産されており、サトウキビジュースを直接発酵させる製法が生み出す風味の豊かさで、世界中のラム愛好家から高い評価を得ています。
中央アメリカや南米でもラム酒の生産が盛んで、例えばガイアナやベネズエラなどの国々では、樽熟成の重厚な風味を持つラム酒が作られています。
北米ではアメリカの一部地域やカナダでラム酒が生産されています。これらの地域では、地元の特性を生かした独自のラム酒が製造され、ラム酒好きに新しい楽しみを提供してくれています。
そして、ラム酒は日本でも製造されており、酒造大国である日本製のラム酒は非常に高品質なものが多いです。
ぜひ各地域のラム酒を飲み比べてみてください。当サイトでは各地域のラム酒も紹介しています。
ラム酒の飲み方
ラム酒の飲み方には他のお酒と同様に、ストレート、ロック、カクテル等の飲み方があります。
ホワイトラムはカクテルのベースとしてよく使用されます。有名なラムベースのカクテルとしては、モヒート、ダイキリ、ピニャ・コラーダが挙げられます。
一方、エイジドラムやスパイスドラム(ほとんどがゴールドラムかダークラム)は、ストレートやオン・ザ・ロックでじっくりと味わう飲み方が多いです。
それぞれの楽しみ方を深堀した記事もありますので、ぜひ参考にしてください。
ラム酒の選び方
ラム酒を選ぶ際は、まず自分がどのような場面で飲むのかを考えてみることがお勧めです。
カクテルのベースとして使うのであれば、ホワイトラムがおすすめです。また、特定のカクテルには特定のラム酒が推奨されていることもあるので、レシピを確認してみましょう。
一方、自分自身で楽しんだり大切な人へプレゼントするためのラム酒を探しているなら、エイジドラムやスパイスドラムを選ぶと良いでしょう。これらは一口一口をじっくりと楽しむことができ、ロンサカパのような良質なものはウイスキーやブランデーと並ぶ高級酒として評価されています。
ラム酒の産地も重要な要素です。前述のように、ラム酒の風味は産地により大きく変わります。自分の好みの風味を追求するためにも、異なる産地のラム酒を試すことをおすすめします。その産地の歴史について詳しかったり、旅行に行く予定があったりする地域のラム酒を選ぶのも面白いでしょう。背景知識がある地域のラム酒を飲むと、それに思いを馳せて楽しむという楽しみが広がります。
また、ラム酒には色々なフレーバーがあります。バニラやキャラメル、スパイスやトロピカルフルーツなど、それぞれのラム酒はユニークな風味を持っています。自分が好きなフレーバーのラム酒探すことも楽しいでしょう。
ラム酒と相性のいい食べ物
ラム酒は相性のいい食べ物と合わせると、更に奥深さを楽しむことが出来ます。
ホワイトラムをストレートやロックで飲む場合は日本の黒糖焼酎に近い味わいがあるため、お刺身などの海鮮や焼き鳥といった肉料理との相性が非常に良いです。
ゴールドラムやダークドラムといった風味の強いラム酒は、その奥に隠れているフレーバーに近いチーズ、チョコレート、ナッツなどとも相性が良いです。また、ラム酒の本場・カリブ地域のスパイスが効いた料理を合わせても粋でしょう。
ラム酒の保管方法
ラム酒の保管方法を知っておくことも、その品質を維持するために重要です。
ラム酒は直射日光や高温から避け、冷暗所に立てて保管することが望ましいです。開封後はキャップをしっかりと閉めて空気の侵入を防ぎ、なるべく早めに飲み切ることをおすすめします。
直射日光が当たる場所や高温な場所では、ラム酒の劣化を招いてしまうのでなるべく避けてください。特にストレートで飲むようなラム酒は、開封後も長期間保管されるケースも多いので、注意しておきましょう。
最後に
ラム酒はその多様性と豊かな風味から、世界中で愛されるスピリッツとなっています。その産地、製法、種類、そして楽しみ方は、ラム酒の深い魅力と文化を反映しています。
ラム酒を選び、飲む際にはその全てを楽しみ、自分だけのお気に入りを見つけてみてください。そして、一緒にカリブ海の風を感じながら、この素晴らしいスピリッツの世界を旅しましょう。
私たちも、みなさんの仲間としてラム酒を楽しむために尽力していきます。
ここまでお読みくださりありがとうございました!
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